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クリニックの事業収支をケース毎に比較検討どうなる収入!
手取り収入の多寡につながるなぜ?を解説
承継1年目から生じる所得差の理由はここにあった!
両クリニックとも、承継時の経営状況は同じでしたが承継1年目からその差はすでに生じはじめます。東京都と千葉という立地条件は異なりますが、それだけでなくLクリニックの成功にはきちんとした理由がありました。 それぞれの誤算、成功要因を解説します!
―2つのクリニックの比較表 ―
■経営数値 (金額単位:千円) KLクリニック比較表拡大→
Kクリニックの誤算
誤算要因1 立地条件の検討の甘さ
現在、Kクリニックの半径500メートル以内(一次診療圏)には競合する内科系の医療施設が他に6院あります。しかし開業した30年前にはその殆どが無く、正に地域医療の一翼をがっちり支えてきた存在といえました。 ところが・・・
- 長年の地盤があるとはいえ市場も変化し、競合クリニックがサービスを向上ししのぎを削っており、患者ニーズも多様に変化している。あらためて自院の医療サービスや求められる機能の分析・対応が必要だったが、その視点が欠けていた。
- 承継前は新患数があまり増えておらず、地域の高齢化の割には慢性疾患の患者数も伸びていなかったことを考えると運営戦略を再構築する必要があったが、対策を怠っていた。
- 前院長の父とこれまでの診療所経営の状況や課題などを十分に話し合い、これを機に改善するべきだったが、問題意識を共有する機会が無かった。
誤算要因2 クリニック運営に対するズレと対立
承継後の新クリニックでは、前院長の父が名誉院長として、短時間ながら毎日診療を行っていました。今までの患者さんのために必要な一方、診療面、人事などの経営面で当初から両院長で意見が違うことも少なからず、最初は父を立てていた院長も次第に自分の意見を主張し、院内に混乱が生じてきました。
- 長年のやり方を継続したい名誉院長と、大学や基幹病院等で最新の医療を実践してきた院長。診療面や経営スタンスが異なり、治療や検査の方法、投薬の仕方、保険請求の方針から患者さんとの接し方、スタッフ管理や近隣の付き合い方まで対立軸が生じた。
- 従業員はどちらに従って良いか解らなくなり、古参と新スタッフとで微妙に対立めいた空気も生まれてしまった。
- そのことで院内の雰囲気が悪くなり、医療や接遇などのサービスの質が上がらず、患者さんが離れたり、新患に繋がらず大きなマイナスとなった。
Lクリニックの成功要因
成功要因1 診療所の新築による患者へのアピール
承継する数年前からクリニックの診療に携わっていたL院長は、地元の患者さんとふれあう中で、これまで以上に地域医療に貢献したいという思いが強くなってきました。 また前院長が運営を一切任せると信頼し託してくれたこともあり、全体に古いイメージを刷新したいという思いから、承継に合わせ、思い切って35年経ち老朽化の進んだ建物の更新を考えたのです。
- 承継と前後して業者等との打合せを始め、年末には敷地内に新診療所をオープンした。建物自体は父名義の借入、医療機械やその他の備品等は院長が父からの借入により購入・整備を行った。
- 建物はモダンで親しみやすく、照明等も明るく目立つように設置した。駐車場への出入りをし易く工夫し、内外の使い勝手や動線を大幅に改善し、来院エリアも広がり、より広範囲からの患者さんを確保できた。
- 調査によると、従前は患者さんが近くの開業医や地域の総合病院に分散していた状況だったが、承継を機に建て替えたクリニックの完成が12月という患者数が増える時期が奏功し、診療圏内の患者さんが明らかに増加となった。
成功要因2 スムーズなバトンタッチに成功
L院長は、非常勤勤務を続けて時間をかけて代替わりをしたため、院長交代後も違和感なく患者さんやスタッフに接することができました。承継前の期間に前院長と意思疎通をじっくりと行い、クリニックをより地域ニーズを捉えた形で発展させていくために自分自身の持つ考えを検証しました。その結果診療所の建て替えが実現したのですが、そこには院長の意思を尊重し、全面的なバックアップに回った前院長の存在が非常に大きいポイントとなりました。
- スタッフには従前から自分のスタンスや診療方針を伝え、現場の情報収集も常時行いしっかり意思疎通と組織・人事の把握を図った。
- 前院長は管理者変更とともに一切を任せ、心配でも口を挟まず後方支援に徹するスタンスを取り、前院長に診てほしいという患者さんには週一の診療でサポートを行った。
- 前院長には地元医師会とのパイプ役をお願いし、ファウンダーとして記念行事など大事な時に表に立って頂くなど、機能をはっきりと分けて運営を行った。
ワンポイント:親子承継における戦略の準備と親子間の上手な連携
今回の事例では、クリニックでの親子承継における戦略の準備と、親子間での上手な連携の重要性についてご紹介しました。
Kクリニックのケースは、長年診療を行ってきた施設を“継ぐ”ことが前面に出てしまい、それ以外の戦略に思いを巡らせることができなかったことが、承継開業後に勢いを付けられなかった大きな要因でした。先代の父との役割分担が適切にできず、その力を発揮できなかったことが伸び悩みの最大の要因といえそうです。
このような状況を防ぐためにはまず、親子であるからこそお互いの考えについてきちんと話し合いをもつことが重要です。先代はこれまでどのような思いを持ち、どのような経験を重ねてクリニックを運営してきたのか、また若先生はそれを理解した上で今後どのような医療を提供し、どのようなクリニックを実現したいのか、について冷静に話し合いをもち、お互いできる限り腑に落として行くことが大切です。事業承継後は新院長の基に一致団結できるような体制造りにこそ先代は腐心し、協力することが最も大切なことであるといえます。
一方のLクリニックは、同じく長年前院長が診療を続けてきた地元に対し、積極的に貢献していきたいという強い思いからその後の戦略を発想していきました。なかでも建物の新築というのは意思決定のタイミングが難しいものですが、承継をチャンスと捉えて行動に移し、結果を上げたことは十分に事例として参考とすべきことといえます。
親子承継は「家」の問題でもあり、それぞれの事情において複雑な要素が絡む部分もあることから一概に理想的な運びができないケースもありますが、いずれにしても対外的にあるべき役割分担を踏まえ、一致団結して承継という大事業を乗り越えていくことが肝要であると思われます。
(文責:税理士法人アフェックス)