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クリニックの事業収支をケース毎に比較検討どうなる収入!
手取り収入の多寡につながるなぜ?を解説
開業初年度だからこその有効的な「宣伝」の活用
後編では、クリニックの経営状況を表した表を並べてみました。Hクリニックは、広告宣伝費の初期コストを抑えたGクリニックより200万多く初年度投資したに関わらず、3年度結果はGクリニックを倍上回る可処分所得を獲得しています。
―2つのクリニックの比較表 ―
■経営数値 (金額単位:千円) GHクリニック比較表拡大→
Gクリニックの誤算
誤算要因1 広告活動の選択ミス
G院長は開業前にコンサルタントより「内覧会の実施」や「新聞折込チラシ」など通常行われる一連の開業広告の提案を受けていました。 しかし、医療モールであることに加えてG院長は広告全般にあまり良い印象を持っておらず、一度来院していただければ口コミにより患者数は自然に増えてくるものとも考えており、さらに開業当初の運転資金をなるべく多く確保したいという事情もあり、広告らしい広告はほとんどしないままオープンの日を迎えました。いざ蓋をあげてみると・・
- 初日は近所の患者さんが数人来院したのみ。その後も期待した様に増加せず、口コミによるネットワークは思うように広がらなかった。
- 来院動機も「近所だから」「たまたま通りがかりで」が圧倒的に多く、口コミの前にまず来院して頂き、その前段として「多く知って頂く」重要性を徐々に痛感した。
- 新しいビルの3階という立地は外からの視認性などの観点から有利な状況ではなく、医療モールといえども危機感をもって認知度を上げるための工夫ができていなかった。
誤算要因2 ホームページの情報不足
口コミによる患者数の自然増加を考えていたG院長は、ホームページの開設にもやはり消極的でした。付き合いで作成しましたが、診療時間や休診日、道案内など、基本情報のみの至ってシンプルでローコストの“壁紙”で、これも患者数の伸びない要因となっていたと言えそうです。
- インターネットは世代を超えて浸透し、得られる情報も大きく、患者さんの多くはまず最初にクリニックのホームページをみている。今やその役割は広告ツールの中でも「非常に重要度が高い」という認識が欠けていた。
- ホームページは現在の制度上、広報媒体としては表現の制約が少なく、比較的自由に院長先生の診療方針、診療所の雰囲気など自院をアピールできるツールだが、上手に活用しておらずクリニックの認知に繋げることができていなかった。
Hクリニックの成功要因
成功要因1 広告手段の積極的活用
H院長は開業にあたり、いかに地域の患者さんに自院を認知して貰えるかを重視して行動しました。
クリニックの情報がより上手に伝わるよう、表現にも細心の注意を払って打合せを重ね、最終的にH院長の満足行く質のものができ上がりました。 広告費用は開業時の資金繰りにとって小さくありませんでしたが、かけたコストは正に開業費として割り切り、とにかくスタートダッシュを成功させるために出来る限りのアイデアを検討し実行した結果・・
- 内装工事の段階から「整形外科開業予定」の看板を掲示し、開業直前にはスタッフ募集を兼ねて新聞に2回折り込みチラシを入れ、ポスティングを広く実施、電柱広告も広いエリアに掲示。また内覧会も2日にわたって行うなど、一般的に考えられることは全て実施した。
- また野立や駅の看板の設置やバスアナウンスに加え、早々にホームページを開設し、情報を適宜更新。
- 開業3ヵ月目から一日平均患者数は40名を超えて推移し、来院動機のアンケートからも様々な媒体から認知度が広がっている様子が伺えた。
- 2年目以降は来院動機に「知人・家族の紹介」のウエイトが高くなり、広告を少しずつ絞り込み、ホームページの更新、要所にある野立看板、ポイントを絞った電柱広告等、主要なものに抑えることで、より確実な黒字経営を達成した。
成功要因2 診療圏内の状況把握とアクション
もとの勤務地のそばでもあり、H院長は開業エリアの住民層は概ね把握していましたが、認知度のギャップを計るため、開業後暫くしてあらためて専門業者に診療圏の調査を依頼しました。
- ある程度の患者数を予想していた、駅の反対側のX地区が、告知のボリュームに対しあまり増えておらず、人の流れ等を確認すると、駅逆側から渡るのが不便、さらに競合他院のグリップ力が想定よりも強いことが分かった。
- 一方、距離的に来院が少々厳しいと思われていたY地区からの患者数が意外に多く、そこに訴求することで更なる患者数増加が見込めそうなことも判明。
- X地区は今後も見込みは薄いと判断して広告を絞り込み、その分Y地区に対して看板設置するなど手厚く拡大して広告展開を実施。
- 決断はすぐに功を奏し、Y地区からの患者さんは目に見えて増え、比較的広範囲から多くの患者さんを集めることに成功した
ワンポイント:開業初年度の有効的な「コスト」
今回の事例は、クリニック開業における広告の戦略的利用法について紹介いたしました。
開院時は内覧会告知や開院チラシの配布など、広く自院をアピールする貴重なチャンスになります。良い医療機関を探している潜在患者層に対し、来院に繋がる情報を積極的に提供することで来院のきっかけ作りをすることは非常に効果的です。また効果や料金の違いはありますが、看板や交通広告、電話帳広告などツールは数多く存在し、それらをいかに活用して診療所の存在を知ってもらうかは、患者数確保のための重要な鍵といえます。
Gクリニックは、医療モールの認知度の高さを過信し、また広告に対する認識が現実にマッチしなかったばかりに、当初思い描いていたクリニックの運営が遠回りすることになってしまいました。患者さんに情報を届けることの重要性を理解するとともに徐々に患者数も増えはじめ、可処分所得もプラスに転じましたが、大きく出鼻を挫かれたことは言うまでもありません。
一方Hクリニックは、医療モールの効能に過度な期待を持たず、開業広告の効果を理解し最大限に活用したことに加え、診療圏の再調査や来院分析を行うことで事前の想定を検証し、合理的にアプローチすることで効果的に広告費用を配分することができました。またなんといっても、開業時のみ活用できる「内覧会」を2日にわたって開催、多くの患者さんに来院していただき、クリニックの良さをしっかりと感じて頂くことで早く口コミサイクルの流れを作り出すことに成功したといえます。またさらに資金繰りの余裕が生ずることで、借入金の早期返済や更なる設備の充実を図ることとも可能となり、ますますクリニックの実力が伸びていく良い展開に繋がります。
医療機関の広告はまだまだ様々なレベルで規制があり、また広告手段においても非常に多くの種類があってどれを選択するのがより効果的か、判断が難しいところでもありますが、開業時にかける広告宣伝費用はその効果が最も高いといえます。無事軌道に乗った後の増患対策で最も重要なものはやはり患者さんの評判=口コミですが、開業当初の認知度を押し上げる広告は、口コミに乗せるための時間を短縮するための有効なツールでもあります。
開業時は貴重なタイミングとして広告媒体を十分に活用していただき、また継続的に効果を把握しながら選択していくことで充実した経営を実現することが可能となります。また開業時はもちろん、開業後伸び悩んでいるクリニックにも広告戦略を再考することが重要な方策になりうる、といえそうです。
(文責:税理士法人アフェックス)