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クリニックの事業収支をケース毎に比較検討どうなる収入!
手取り収入の多寡につながるなぜ?を解説
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ビル型メディカルモールで開業したクリニックのその後
〜人件費コントロールの成否が1300万の所得差に!〜
Eクリニックでは、診療に専念できる環境を整えたいという院長の考えから事務長も採用し盤石の体制でスタート。Fクリニックは体制構築には慎重なスタンスとしながらも、ふたをあけてみれば両クリニックとも同じ人数「6名」での開業となりました。
前編でご紹介するのは2つのクリニックの3年間の経営状況を表した表です。後編で2つの表を並べて比較してみますので、まずは1クリニックずつの数値をざっとご覧ください。同じ6名のスタッフ構成なのに、3年後の可処分所得の数値の開きはなぜ生じたのでしょうか。何かお気づきの点、おや!?と思う点はありますか?
page1 | 2つのクリニックの経営状況・数値を紐解くと・・。 |
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page2 | この選択が分かれ道!一般的な人件費率も念頭に。 |
2つのクリニックの経営状況・数値を紐解くと・・。
Eクリニックは都下私鉄駅から徒歩5分程のビル型メディカルモールで開業した皮膚科・形成外科のクリニックです。E院長は大学病院退職後、いくつかの民間病院で医長等を経験し、臨床の実績を重ねてきた経歴があります。
開業地はE院長の自宅から近く勝手のわかった地域で、通勤途中にテナント募集の情報を見て院長自らが選んだ場所です。以前管理職をしていた病院のある沿線でもあり、地域の特性などもわかっているうえ最寄り駅周辺には競合する診療所は少なく、ややメイン通りからははずれるものの、家賃交渉にも応じて貰えたためほぼ即決で開業地に決めた状況でした。
◆開業後の推移
駅前に近い立地でもあり、ある程度のニーズが集まるものと密かに期待して人員体制も整え開業を迎えました。開業すぐには患者さんも来ないものと割り切って診療を始めたつもりのE院長でしたが、その後も患者数の伸びが鈍く、次第に不安が増す状況が続きました。
■経営数値 (金額単位:千円)
◆開業3年後の可処分所得
収入面で厳しいスタートとなったEクリニックですが、期待する収入を担保に、社会保険料の負担も必要となる常勤のスタッフを軸に採用したことが大きな戦略ミスだったといえます。開業初年度の人件費は43.8%(Eクリニック経営数値F「人件費」)とかなり大きくなり、結果初年度は可処分所得も大きくマイナスとなりました。
従業員の退職を機に新たに採用する職員は全てパートとし、余剰人員をなくす事で2年目以降は人件費を抑えることができ、さらに3年目には事務長も退職して、ようやく普通のクリニックとなったことで可処分所得も開業前の2/3程度まで確保しましたが、スタートダッシュの失敗が開業資金繰りに及ぼしたダメージは小さくないものがありました。
Fクリニックは、都下JR駅徒歩5分の地域にあるビル型メディカルモールにて開業した皮膚科・形成外科のクリニックです。F院長は大学病院で長く勤務後、いくつかの民間病院で経験を積み、多様な臨床実績を重ねてきた経歴がありました。特に大学で形成外科の処置を多く行った経験から、皮膚科領域に総合的に対応する自信をもって開業に踏み切ったもので、開業地として選んだのは最後に勤務していた病院の近接地でした。
開業するにあたり、F院長は連携に力を入れ、出身病院をはじめ地域の内科・精神科等と積極的に情報交換をしながら、患者さん個々を重視した質の良い医療の提供を心掛けることを理念としました。 またスタッフにも事前のトレーニング期間から自身の理念を繰り返し話し、それを理解して患者さんへの対応して貰えるよう教育しました。また自ら先頭に立ち、患者さんの満足度の高い対応を工夫し実践していきました。
◆開業後の推移
メディカルモールにはFクリニックの他既に2つの診療所が入っており、地域の認知度もある程度高まっていたところでの開業となったため、当初より患者数はある程度確保できました。2年目以降はモール内連携も奏功し、想定を上回るニーズがあり更に順調に収入を拡大していくことになりました。
■経営数値 (金額単位:千円)
◆開業3年後の可処分所得
医業収入(経営数値A「医業収入」)は開業初年から順調に伸び、2年目で開業計画の予想を超える実績を計上することとなりました。 また人件費は収入に応じて補充する体制をとったため、2年目からは10%を下回る水準で推移し、結果として固定費(経営数値L「固定費」)が小さく抑えられて利益(経営数値M「事業所得」)がしっかり計上でき、可処分所得も2年目から1500万円を大きく超える額を確保することができました。
さらに3年目には一日患者数も50〜60名を維持できるようになり、可処分所得は2510万円と開業前の目標値を大幅に超え、発展的な設備投資や人員体制を考える事の可能な財政状態を得ることに成功しました。
後編では、2つのクリニックを比較しながらクリニック経営戦略の違い、その結果 について解説します。