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クリニックの事業収支をケース毎に比較検討どうなる収入!
手取り収入の多寡につながるなぜ?を解説
この選択が分かれ道・・
3年後、そこには可処分所得にして1700万!の差が。
いったいどの選択が分かれ道だったのでしょうか?
後編では、クリニックの経営状況を表した表を並べてみました。2人の先生方の開業から3年間の取組、経営姿勢が反映された表ともいえます。2年目、3年目に違いがはっきり出てきた項目に注目してください。
―2つのクリニックの比較表 ―
■経営数値 (金額単位:千円) ABクリニック比較表拡大→
Aクリニックの誤算
誤算要因1 過大投資+過剰体制
施設整備や医療機器の導入を済ませ、またスタッフも良い人が採用できて万全の体制でスタートしたが、開業後そのコスト負担が徐々に重くなった。
- 医療機器は、患者ニーズからすぐに必要なものは一部で、遊休状態のものも少なくなく、また患者さんの施設選択の
要因としても、期待通りの効果を発揮するに至らなかった。 - 患者さんはある程度とぎれないものの、スタッフは時間を持て余している事も多く、仕事を分け合うような状況だった。
誤算要因2 必要収入の不足
肝心の患者数が伸び悩み、当初計画に必要な収入の確保がなかなかできない状況が続いた。
- 頼みの元勤務先病院からの患者さんが想定外に少なかった。
- 診療圏内のライバル医院の患者グリップ力が想定以上に強く、専門性で勝るはずのAクリニックになかなか
実力発揮の機会が巡ってこない状況が続いた。
Bクリニックの成功要因
成功要因1 固定費の抑制
開業にあたり院長が描いた経営コンセプトは“小さく生んで大きく育てる”、つまり、当初から多くの医業収入を予定せず、いかに“決まった支出”を抑えて運営できるかというものだった。
- 採用職員:パートのみの採用で人数は当面受付2名と看護師1名とし、看護師不在の日は状況により
院長と事務(=助手)で患者さんを捌く体制とした。 - 医療機器等の設備は、考慮を重ねた結果、電子カルテ、X線一般撮影装置、エコーなど最小限に絞り込み、
かつリースを利用して総額で1千万円以内に抑えた。
その結果、内科一般の開業としては比較的支出を抑えた(「経営数値」(L)固定費」)形態で運営がスタートできた。
成功要因2 地道な増患対策
一方、開業当初から医業収入に直結する増患対策には意識して能動的に、かつ方法に工夫をして取り組んだ。
- 近隣の企業・学校を訪問し、新規開設の挨拶とワクチン・検診の対応を説明して回った。
訪問を重ねるうちに職場広報に掲載されるまでに認知され、徐々に患者増につながり、当初期待以上の援軍となった。 - 開業後も院長は多くの研究会に参加し、参加の都度、ホームページに研究会の名称とテーマを「お知らせ」として
アップを続けた。
結果として、当初目標であった一日平均患者数30名を2年目でクリアし、次のステージへ向かって戦略を練る余裕を持つことができた。
ワンポイント:分析と改善戦略
今回の事例は、初期投資に対する考え方が異なった事例紹介をしました。
Bクリニックの順調さは小額投資により開業後の「固定費」が軽減されていたことが大きく、さらに対外活動を能動的に進めた院長の行動力との相乗効果がもたらした結果といえます。現在では患者さんも一日平均60名を超え、必要に応じてスタッフも増員するとともに医療機器も慎重に導入を進めています。
Aクリニックも開業4年目からは漸く患者さんが流れはじめ、スタッフとともに遅ればせながら医療機器が稼働率を上げて収益を生み出しています。また負担となっていたリース料の支払が終了し黒字額も増加しつつあり、6年目で可処分所得も開業前の水準を超えるまでに拡大するに至りました。ただし、やはり開業当初の資金ロスは大きく、ライフプランを考える上で予定を大幅に見直さざるを得なくなりました。
開業に際しては、いろいろな夢や希望の実現を目指して理想の形を追求しがちです。また、“折角だから”良いものにしましょう、あれば戦力になるものを導入しましょうとの周りの助言も入り、ついあれもこれもとお考えになるケースは少なくありません。 しかし、ここに落とし穴があることをしっかり認識する必要があります。特に設備は形態を問わずダイレクトに固定費を押し上げ、導入のための資金返済に長期間追われることになります。また人件費は当初から多めに配置するとそれがクリニックの常態となりがちで、人件費率の高い体質に繋がります。
患者数の増加=収入の増加には不確定要因が多く、計画通りの実績は期待できません。可処分所得1500万円の獲得には、まず固定費を抑えたリスクの小さい形の開業を目指すことが最も近道であるといえそうです。
(文責:税理士法人アフェックス)