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開業後の診療所経営について具体的ケースを検証し
経営改善につながる対策を『処方箋』として解説します。

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医療法人の継承開業

最終回の第12回では、医療法人の継承開業のケースをご紹介します。 個人クリニックと医療法人とでは、基本的な性質が大きく異なる部分があるため、その特性をいかにうまく生かして運営をするかが大変重要です。今回は専門家を活用し、柔軟な思考方法で対応し成功した例を解説します。

エピソード1 地域に根ざした診療〜継承する形での開業も。-小児科クリニック紹介
エピソード2 個人クリニックと医療法人との売買の違いは?-問題点に対する処方箋

地域に根ざした診療〜継承する形での開業も。-小児科クリニック紹介

地域の患者さんから支持を集めるクリニックとの「出会い」医療法人の具体的な事業継承方法とは?


小児科クリニックのケース

L医師の概要

L医師 神奈川県内の民間病院勤務医(小児科・41歳)
開業予定 1〜2年以内に開業を考えている
開業形態 開業の形態は既存クリニックの継承が希望

医療法人G小児科の概要

項目 内容
標榜科目 小児科
院長 72歳
開設日 開業40年目、うち法人30年
所在地 神奈川県郊外
クリニックの概要 一日患者数80人
交通アクセス 駅徒歩15分の住宅街
スタッフ スタッフ10名

L医師の開業予定

現在民間病院に勤務している小児科医のL先生は、半年ほど前から開業を考えるようになり、現在の勤務地から遠くない場所で開業地を探していました。そして様々な開業形態がある中にあってL先生が希望したのは

  1. 戸建てで不動産を自己所有する形
    そしてできれば
  2. ベーシックな患者さんがいる施設を継承
    というものでした。

出身も神奈川であるL先生は、地縁もあることからなるべく地元に根ざして長く診療を続けていきたいという希望を持っていました。また開業当初の患者確保に苦慮していた先輩開業医の経験談を聞くにつけ、良い条件のところがあれば既存の施設を継承する形で開業をしたいとも考えていたのです。

そのような中でまもなく、開業コンサルタントを通じて紹介されたのが同じ市内で開業しているG小児科のG院長でした。G小児科は医療法人で、先代の先生が約40年前に有床診療所として開業して以来、地域の患者さんから安定して支持を集めているクリニックだったのですが、後継者がいないことに加えて近年G院長が体調面の不安を抱えており、遠からず誰かにクリニックを譲りたいとのお考えをお持ちでした。

紹介されて面談し、お互いに真摯に地域医療に向き合っている姿勢に共感したL先生とG院長は、基本的に継承の合意をするに至りました。 物件選びは"出会い"でもあり、長く探してもなかなか希望に合った場所が見つからないケースもあれば、殆どあたらない段階で条件に合う物件に巡り会うこともあります。L先生のケースもまた早々に良い出会いがあったケースであると言えそうでしたが、さらにG院長は、しっかりと患者さんを診てくれるなら継承に伴う営業権などは一切いらないと言います。G小児科は、医師会の先生や仕入業者などから聞く地元の評判も良く、長く順調な経営を続けてきたことから金銭的な問題もなさそうです。また聞く限りにおいて診療面でのトラブル等もないようで、それらのリスクに関してはコンサルタントが用意した「継承契約書」をきちんと締結することで基本的にカバーできると判断ができました。 ただ、一方でG院長の条件としては、

  1. ある程度の期間、短くても1年程度はL先生に非常勤でG小児科に勤務してもらい、徐々に引継ぎをした上で継承としたい
  2. 現状の従業員はそのまま雇い続けて欲しい
  3. 継承の際には、現状ある法人の財産を時価で全て買い取って欲しい

の点について、強い希望を持っていました。このうち、1と2については確認した結果問題なく対応できそうでしたが、3については少々慎重に対応する必要がありました。
G小児科は医療法人であることから、具体的な事業継承は①「出資持分の買取」と②「社員、理事長及び役員の変更」ということになります。個人医院の継承には「医院の廃止・開設」の手続きが必要となり、また営業権を含めて実態財産の売買を個別に行う必要があることから、それに比較してシンプルに簡易な手続で済むメリットがありますが、問題は「出資持分の買い取り価額」の点にありました。

出資持分は、経済的には会社で言うところの"株式"と同様に考えてよく、法人の全ての財産の現れであると言えますが、これはあくまで株主(医療法人の社員)が株(出資持分)を「個人の財産」として取得するものであり、事業に直接投資するのとは違います。

つまり、L先生がG院長から買い取る医療法人の出資持分の対価は、L先生個人が銀行などから資金調達する必要があり、またそれを短期間で回収することや借入金利を法人の経費などとすることもできないことになります。 ここで、直近のG小児科の財産債務の状態は下記のようなものでした。

貸借対照表(時価ベース)  平成××年12月31日 (万円)
資産 金額 負債・純資産 金額
現金預金 5,000 未払金等 1,000
医業未収金 3,000 1,000
土地・建物 1,200 出資金 1,000
(含み益) 4,000 剰余金等 13,000
その他財産 1,800 14,000
合計 15,000 合計 15,000

戸建て開業のクリニックの土地・建物は、設立当初から医療法人が所有しており、これを時価評価したところ、およそ4,000万円の含み益があることがわかりました。またG小児科はこれまで順調に所得を出してきたことから剰余金も多く、結果としてL先生が買い取るべき出資持分の価額は約1.4億円と高額になったのです。 この結果を聞いたL先生は、事業資金であればともかく、個人の持分買取のためそれだけの投資をすることに躊躇しました。市場で売却することもできない株(出資持分)を1億円出して購入し借金を負うのは、やはりどうしても投資効率が悪い気がしたからでした。

ただしG小児科は10年程前にリニューアルして施設的にもしっかりとしており、スタッフもよくまとまっていて患者さんからの評価も高いようです。また何度か話を重ねるうちにG院長の人柄にも感銘を受けたL先生は、何とか現実的な折り合いがつかないかあれこれ考えたのでした。そして先輩ドクターの紹介で、プロの視点からの打開策を求めて医療法人の運営に多くの実績のある専門家に相談することとしたのです

総括

ここでL先生は発想を大きく転換した方法をアドバイスされ、その後その対策を実施することとなります。いったいどのような方法だったのでしょう。

(文責:税理士法人アフェックス 旧 税理士法人町山合同会計)

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