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開業ドクターから学ぼうみんなの本音
患者・スタッフ・家族...
開業医をめぐるそれぞれの本音とは?
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家族の本音―突然の開業浪人生活!物件を見つけるまでの長い1年
大木さん(仮名)50歳の場合
「みんなの本音」、医師のご家族が登場するシリーズの2回目は、
7年前のある日、まだ開業のめどが全く立っていないのに、勤務先の病院を辞めてきてしまった医師の家族が登場します。
1年半にもわたるアルバイト生活の中で感じた不安や、専業主婦から医療法人の理事となった現在の暮らしぶりなどをお聞きしていきます。
「いつかは開業するとは思っていたけれど、まだ何も決まらないうちに勤務先を辞めてくるとは思わなかった」と語る大木さん。
開業前の準備期間に感じた事とは。
夫は以前から「いずれは開業したい」と話していましたので、私もきっといつか開業するのだろうな、とは思っていました。
とはいえ、多くの方は、開業のめどが立ってから辞めますよね。
でも夫は違いました。
ある日突然、「来月、病院を辞めることにした。開業準備をするからよろしく」と言ってきたんですよ。
あの時はまさしく、空いた口がふさがらない状態でした。
しかし、夫の性格からいって、もう決めてしまったことについて、私が何を言っても撤回はしないことはわかっていましたし、前々からの希望でもあったので、夫を信じて応援するしかなかったです。
夫は退職後すぐに、友人の診療所で週4日ほどアルバイトを始めました。
残り3日を開業準備にあて、コンサルタントの方の話を聞いたり、開業セミナーに参加したり、不動産屋をまわって自ら物件を探したりしていました。
夜勤や休日勤務もなく、多少の残業はあっても深夜に及ぶことはなく、勤務医時代に比べ時間に余裕がありました。
休暇もとれましたので、一家団らんの時間もあり、家族旅行を楽しむこともできました。夫は「開業の夢をじっくりと温めている」と言ったらいいのかしら、充実した時間を過ごしていたと思います。
一方私は、当面の生活には不安はなかったですが、夫が病気になれば、即収入に跳ね返ってきます。
万が一のことがあれば、路頭に迷う可能性だってあるかもしれないと思うと、眠れない夜もありました。
子供が2人いるのですが、長男が高校受験を目前に控えていましたし、次男も中学に入り塾に行き始めた頃で、これからどんどんお金がかかることが目に見えていたことも、不安を助長していたと思います。
夫に直接言ったことはありませんが、「この先、本当に開業できるのだろうか。もしもこのまま、アルバイト生活が続いたら、私たちはどうなってしまうのかしら?」と思うと、心配でたまりませんでした。
開業に対する夫のこだわりは、ビル中ではなく、戸建ての診療所を持つことでした。
また、コンサルタントの方にやっていただいた診療圏の市場調査に基づき、人口の割に診療所が少ないA市で開業することも、わりと早くから決めていました。
コンサルタントの方だけでなくいくつかの不動産屋さんにも、この2つの条件を満たす物件を探してもらっていましたが、立地は良くてもビル中だったり、戸建てだけれども地域が違ったりと、なかなか希望通りの物件に出合えませんでした。
10カ月くらいたったころだったと思います。
ビル中だけれども立地は申し分のない物件が見つかったことがありました。
その頃、私の中に不安に思う気持ちが大きくなっていたため、「もう十分探したと思う。妥協して、この物件に決めてほしい」と夫に頼んだことがありました。
でも夫は、「不安もわかるけれど、私はまだ諦められない。希望通りの物件が見つかると信じているから、もう少しだけ時間がほしい」と言い、頑として首を縦に振りませんでした。
そのことがあってから、私も本当の意味で開き直る覚悟ができました。
夫が開業後は私にも手伝ってほしいと言うので、私にできることはないかを探し、医療事務の勉強を始めたのも、これがきっかけでした。
それから2カ月して、夫の希望通りの現在の物件が見つかりました。
見つかった時は、「夫を信じて妥協せずによかった」とつくづく感じました。
勤務医を辞めて物件が見つかるまでの1年間は、精神的にはかなりつらかったですが、最終的に待ったかいがありましたし、私に覚悟もできましたから、私たちにとって必要な時間だったのだと思っています。
開業場所を決める際、院長の希望に加え、地域性、近隣にある診療所の標榜科、住民の属性など、多くの事項を検討する必要があります。
すべての条件を満たす物件を見つけることが困難な場合は、優先順位をつけ、譲れない条件、妥協できる条件を明確にすることも大切と言えそうです。
「開業3年目で法人化をしたことをきっかけに、私も理事になりました」と話す大木さん。
次回は、毎日クリニックに通い、夫をサポートしている大木さんの日常をお話しいただきます。