一部の必要性の高い医薬品薬価の値上げで、薬の供給不安は解消されるか?
(2024年4月)
令和6年3月5日、厚生労働省は令和6年度薬価基準改定を官報告示しました。薬価ベースの改定率-4.67%で、4月1日より改定後の薬価が適用となります。*1
一部の先発医薬品については「骨太の方針2023」に基づき患者の負担増になることは1月の「Check! 気になる医療ニュース」で紹介しました。
その際にも指摘していた医薬品の安定供給確保のために「不採算品再算定」が行われ、「令和6年度薬価基準改定の概要」*2 でその内容が示されました。
「不採算品」の再算定については、中央社会保険医療協議会 薬価専門部会(第221回)で示された骨子案*3 にある通り、「急激な原材料費の高騰、安定供給問題に対応するため、企業から希望のあった品目を対象に特例的に適用」されることとなり、「不採算品のため、薬価の引上げ又は現行薬価の維持を行ったもの」のリスト*4 が示されました。
厚生労働省は3月5日付の事務連絡*5 で、「今回、不採算品再算定の適用となった医薬品(*6)は、保険医療上の必要性が高いと考えられる品目として製造販売業者から報告されたものであり、その安定供給を継続させていくために、適正な価格で流通することが望まれます」とし、さらに「必要量以上の買い込み等が行われると、供給不足が発生し、患者に必要とされる医薬品が供給されなくなるおそれ」があるため、「医療機関・薬局から過度な量の注文があった場合には、その理由等を聴取し適正量の供給を行っていただく」ように、要請しています。
厚生労働省はこの事務連絡を、一般社団法人日本医薬品卸売業連合会、一般社団法人日本ジェネリック医薬品販社協会に加え、公益社団法人日本医師会、一般社団法人日本病院会、公益社団法人全日本病院協会、一般社団法人日本医療法人協会、公益社団法人日本精神科病院協会、公益社団法人全国自治体病院協議会、公益社団法人日本歯科医師会、公益社団法人日本薬剤師会、一般社団法人日本保険薬局協会及び一般社団法人日本チェーンドラッグストア協会にも通知し、協力の徹底を図っています。
今回、厚労省がこれほど強い要請を行う背景には、なかなか解消されない後発医薬品の供給不足があります。
しかし、供給不足の原因には後発品メーカーをめぐる構造的な問題が隠れているのではないでしょうか。
物価高騰のため、薬価が低くなりすぎた医薬品は、たとえ医療上、必要性が高いものでも製造販売を続けることが難しくなっています。
さらには、後発品メーカーに対して行われる医療機関や卸売業者による過度な値引き要請も問題です。
今回、「薬価」と「実際の販売・購入価格」の乖離率が7%を超えるものは対象外となりましたが、こうした業界にはびこる上下の権力関係の構造も解消されて行かなくてはならないでしょう。
後発品は値上げできない、後発品メーカーは価格交渉ができない、こういった昭和的、硬直的な考え方を改めていくことも、薬不足解消の一助になるのではないでしょうか。
(文責:ブランディング・エディター 内田朋恵)
*3「令和6年度薬価制度改革の骨子(案)」(中医協 薬―1 5.12.20)9P参照
*5 事務連絡令和6年3月5日「令和6年度薬価改定において不採算品再算定を適用された医薬品の適正な流通について」2P以降参照
*6 企業から希望があった品目のうち、令和5年度薬価調査結果において、前回の令和4年度薬価調査における全品目の平均乖離率である「7.0%」を超えた乖離率であった品目は対象外とする。なお、不採算品再算定の適用を受けた品目は、厚生労働省 Web サイトに公表している。