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「承継開業」に安心するなかれ!患者の引継・営業権の考え方整理!
両クリニックともテナントの承継物件という状況は同じにも関わらず大きな差が生じる結果となりました。Mクリニックの誤算、Nクリニックが成功した要因についてそれぞれ解説します!
―2つのクリニックの比較表 ―
■経営数値 (金額単位:千円) MNクリニック比較表拡大→
Mクリニックの誤算
誤算要因1 市場調査の確認不足
通常、開業地を探す際には当然ながら市場(診療圏)調査を入れ、自分で何度も現地に足を運ぶなど客観性を検証し、自分の診療スタイルに合う場所か検討を重ね意思決定します。 M先生も市場調査を確認し、小児科患者の増加はそこまで望めなくとも、前院長の長年の診療実績からおそらく認知度は高く、患者もある程度ついており、現役バリバリの専門医が開業すれば調査結果に拘わらず増患には苦労しないだろうと予想していました。ところが・・・
- 開業場所は、幹線道路と鉄道の「地理的障害物」に挟まれ、エリアが限られ、開業後の調査でも診療圏に影響があった。また承継直前に駅の反対側に小児科が新規開業により、期待エリアからの来院に大きな影響があった。
- 前院長は78歳と高齢で、この数年間で患者数が大きく減り、特に小児科は内科に比べても少なくなっていた。患者引継という承継のメリットはかなり減殺されていた。
- 土地勘がない開業では、医師会からの地域情報など広報活動に万全を期すべきが、資金面から開院チラシも数量限定になり、前クリニックの認知度だけに頼りあまり対策をとらなかった。
誤算要因2 営業権コストの評価違い
クリニック承継の契約は、前院長に対して「営業権」見合いでまとまった対価が設定されていました。患者の引継に加え、施設・設備などそのまま使えるものを含む一括譲り受けで、新規開業より大分リーズナブルに感じ、金額にはほぼ異議を唱えず契約しましたが・・・
- 患者数がかなり減少した引継ぎで、支払対価が適正額だったかは微妙なところ。小児科としての認知度もあまり高くなく、プロモーションコストを考えると割り引いて考えるべきだった。
- 内装や機器等も古く、電子カルテなど継承後すぐ更新のコストが発生。エックス線装置などあまり使わないものも多く、面積の割に使用スペースが少なく、処分のコストも掛かってしまった。
誤算要因3 引継にかかる詳細な契約の不備
承継契約に仲介者はいたが、金額等概要の合意後に詳細な確認をせず、前先生とは2回会ったのみで、後は医師同士の信頼感で問題に対処するつもりでいました。しかし・・・
- 備品と思っていたものが実はリース物件だった。追加コストがかかり、結局新たに導入することに。医療器械の保守契約が無く、故障時に高額の修繕費がかかった。
- 従業員の契約条件を確認しておらず、賞与や昇給を前院長と口約束をしていたスタッフがM院長に不信感を持ち、承継後1年で退職。退職金の精算がされておらず、結局一部を負担することに。
- 遠方に転居した前院長との確認がままならず、他にもMクリニックが負担することがつづき。。。
Nクリニックの成功要因
成功要因1 承継条件の良さ
前院長には後継者がなく、年齢(73歳)的にそろそろ誰か信頼して託せるドクターにと考えていた折、N先生を紹介されて面談した結果、お互いに大変気に入って是非承継を、という話になりました。ただし、N先生は資金面に不安があったところ、何と営業権無しでの継承を提案して貰えたのでした。
- 通常、テナント開業でも収入や所得などを基に一定額の営業権を設定するのが一般的。額によっては承継が合意に至らないことも。その対価は後の経営に大きな影響を及ぼすが、大きな承継コストがない開業は非常に有利だった。
- 一方、内装や院内の備品などは経年ものが多く、かなり低い額での譲渡となった。いずれ更新の必要はあるものの、当面は新たなコストを殆ど掛けず開業できた。
- 前クリニックは正に盛業中で、競合もあまり無い中、承継直前でも一日約80人の来院。「まだ元気なうちに後継者を見つけたい、地域の小児医療をしっかり守りたい」との前院長の思いと、「地域に根ざした医療を続けていきたい」N先生の思いと上手くマッチングできた。
成功要因2 承継コーディネーターの存在
承継開業時に、肝心なのは「承継するクリニックの経営状態」と「承継条件」です。特に本件のように禅譲に近いケースでは、先生同士の合意をもとに、他の条件やリスク対応をくみ取った「冷静な契約の確認と執行」が不可欠で、契約仲介の第三者の存在が非常に重要となります。
- 前クリニックの院長が、親しい地域病院の同窓ドクターに相談し、長年付き合いがある医療経営コンサルタントが仲介者となり双方をまとめ、細部の条項を設定した「承継契約書」を作成してアテンドした。
- 契約書は、継承すべき事項や対象物はもちろん、患者さんや従業員への対応などケース毎に責任の所在を明らかにし、承継双方に不安ないように準備できた。
- 従業員に事前に面談し、希望を聞いて“良い方”には再雇用で継続して貰った。承継後も、対外契約や院内で困ったことがあれば前院長にもすぐに相談できる体制をとり、不安なく継続することができた。
ワンポイント:「承継開業」に安心するなかれ!
医院承継による開業は、患者の引継と初期コストセーブの両面から、全くの新規開業に比べてその優位さが評価され、近年急速に一般化している形態です。
承継開業ではまず、承継するクリニックがどのような経営状況にあるかの点が重要になります。上記メリットのうち「患者の引継」を期待する場合には、少なくとも閉院後遅滞なく再開できるタイミングでの承継が必要ですが、そのためには譲る側の先生が経営状況が悪くなる前に前向きに引き継ぐことを考えることが大変重要なポイントとなります。
Mクリニックのケースは、「承継開業」という形式に安心してしまい、承継するクリニックの状況や診療圏と自身の専門とのマッチングなど、肝心な部分の確認を万全にしたとは言い難く、結果として承継のメリットを十分に生かせなかった例と言えます。
経営状況を基にした「営業権(承継対価)がいくらか」の点も同様に重要なテーマになりますが、譲る先生からすると退職金代わりにある程度の額を希望し、承継する先生は少しでも対価を抑えたいとなりがちです。ここはお互いに「適正額」を探り、双方が満足する水準で合意に向かう姿勢を持つことが大切になります。 承継の形式によって多少の違いはありますが、何をどのように譲り譲られるかをきちんとはっきりさせ、かつ契約書に明記することも不可欠で、そのためには冷静なコーディネーターとしての機能を負う「信頼できる第三者」を立てて合意を実現するのが得策と言えます。
折角の貴重な医療インフラを有効に利用し、患者さんやスタッフも含めた関係者全員が利益を享受できるよう、「承継」を上手に活用したいものです。
(文責:税理士法人アフェックス)