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開業ドクターから学ぼう開業ケーススタディ
開業後の診療所経営について具体的ケースを検証し
経営改善につながる対策を『処方箋』として解説します。
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労務管理の見直しによる経営改善 2
優秀な人材確保とその定着のためには?-問題点に対する処方箋
就業規則作成には現状のクリニックに沿った適切なものを。
問題点に対する処方箋
1.就業規則とは
労働条件の整備に欠かせないものが就業規則です。働くすべての職員の様々な労働条件や職場規律等を明記した職場のルールブックであり「クリニックの憲法」と言っても過言ではありません。労働基準法では「常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、所轄労働基準監督署に届け出なければならない」となっておりますが、10人未満のクリニックでも就業規則を作成することにより主に次のような効果が期待できます。
そしてその後、スタッフから寄せられた回答は下記のようなものでした。
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労働条件・経営方針の明確化
口約束では後々トラブルに発展することが予想されるため、包括的に適用される労働条件は就業規則で明示することが有効です。また、経営理念を実現できる組織づくりのためには、就業規則に経営理念・方針を明示し職員と共有することが大切です。 -
トラブル解決の迅速化
服務規律や懲戒規定を明記することで、クリニック内の就業ルールが明確になり、トラブル発生にも迅速に対応できます。特に懲戒解雇を行う際は解雇事由の記載が必須要件になります。 -
モチベーションの管理
就業規則を作成することにより、職員にはクリニックに対する安心感が生まれます。いくら優秀な人材でも、安心して仕事ができなければ成果を上げることができません。
2.Gクリニックの問題点
開業から数年経った頃、職員から労働条件についての要望がいろいろと寄せられるようになりました。その中でも特に院長を悩ませたのが下記のような要望です。
- 勤務態度の悪い職員の昇給を停止したら、昇給させるよう要求された。
- 経営が下降したため、賞与を基本給の0.5ヶ月分に下げたが職員より就業規則通り1ヶ月分支払ってほしいと申し出があった。
- 常勤看護師のために退職金規程を設けたつもりだったが、パート職員から退職金を請求された。
どれも就業規則の記載通りに支給してほしいことでしたが、経営実績や世間相場からして、到底受け入れられるようなものではありませんでした。
では、就業規則の何が問題だったのでしょうか。知り合いの社会保険労務士に相談したところ、以下の点が曖昧であったため職員に有利に解釈されてしまったことが原因だったことが判明しました。
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- (1)
- 「職員」とは誰を指すのか明記しなかった。
一般的に職員と記載すれば常勤・パートを問わずすべての職員が対象になります。特定の職員に限定するのであれば「常勤職員には・・・」と記載するのが望ましいです。
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- (2)
- 条件を設定しなかった。
「・・・する。」と記載すれば労働条件そのものになってしまい、クリニックの経営状況に関係なく職員の権利を実現する義務が生じます。そのため、「・・・する。ただし△△△の場合は○○しないことがある」と但し書きを入れることで条件を付帯します。
3.Gクリニックのその後
職員のためを思い作った就業規則でこんなトラブルになるとは思ってもいませんでした。社会保険労務士のアドバイスに従い、就業規則作成に至った経緯を全職員に説明し就業規則変更の同意を取り付けました。さらに今後、同様のことがないよう他の条文についても職員が納得するまで説明を行うことといたしました。大変な労力とストレスを伴う作業でしたが、時間をかけて何とかこれを処理した院長は、労働条件が異なるパート職員には「パートタイム就業規則」を作成し、常勤とは異なる就業規則を作成することにしたのです。
総括
巷にはモデル就業規則と呼ばれる雛型が多数出回っております。廉価で簡単に手に入るため開業時にはそのまま使用したくなるものです。しかし、その全てが自院の職場ルールに適合するとは限りません。今回のGクリニックでは他院で実際に使われているものだから大丈夫だろうと安易に考えたためにトラブルに発展してしまいました。 就業規則を作成する際は専門家のアドバイスを取り入れたうえで、現実のクリニック運営に耐えうる「適切な」ものを作成することが望まれます。
(文責:税理士法人アフェックス 旧 税理士法人町山合同会計)