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開業ドクターから学ぼう開業ケーススタディ
開業後の診療所経営について具体的ケースを検証し
経営改善につながる対策を『処方箋』として解説します。
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継承物件と診療体制の変更
継承物件、盛業の裏にある問題点―整形外科クリニック紹介
夜間診療が問題の根本。その解決策は?ー問題点に対する処方箋
問題点に対する処方箋
1.Y整形外科の問題点
ここでY整形外科の問題点を挙げると次の点になります。
- 患者のため過剰診療気味になっており、結果としてコストが生かされていない
- 夜間の患者ニーズがある→夜間診療を行う→体制確保のため人件費が嵩む→診療時間を一層延ばして対応しようとする、という悪循環となっている
- リハビリ室が独自の判断で患者対応し院長の指示が届かないなど、労務管理が難しい状況にある。
このうち2と3は関連性が高く、ここにきて「夜間診療」が問題の根本にあることがわかってきました。夜間来院層にはその時間でないと難しい患者さんもいるものの、経営効率の側面からは疑問が残るため、その是非の検証を行いました。その結果、
- 本来の緊急対応は診療圏にある公立病院が機能を持っているため、実際の来院患者のほとんどがリハビリで時間あたりの単価は高くない
- 午後の診療が16時からであるため昼休みが間延びし、常勤の形式的な拘束時間が非常に長くなっている
- 最後のリハビリ患者が帰るまで全員残業となるなど非効率となっている
- スタッフ採用においても非常に大きい障害となっている
という状況がはっきりとして来ました。
これを受けD医師は、新クリニックの午後の診療時間を思い切って「14時から17時」とすることを決断するに至ったのです。それまでの体制を大幅に変更することとなるうえ、一般のクリニックの戦略からすると真逆ともいえる転回でまさに“清水の舞台から飛び降りる”覚悟が要りましたが、その裏には冷静な判断がありました。つまり、
- 夜間診療における人件費率が非常に割高になっていること
- 午後の診療を早めることで、夕方以降来院していた患者さんのうち何割かはその時間内に振替がききそうなこと
- 延びた戦線を縮小しコンパクトにすることで、同時に医師中心の本来の診療所体制確保できること
- 勤務条件の大幅改善により、パート中心に低コストでの採用が可能となること などをじっくりと考慮し、悩んだ結果の選択だったのです。
2.改善策の実施内容
ここでこの体制変更を実施するにあたり、最も心配だったのは患者さんの動向と評価です。診療時間が大幅に短く、かつ前倒しとなることで不便になる中、どれだけの方が来てくれるのかがやはり最大の不安要素でした。約半年の期間現場で診療を続けてきたD医師には、ある程度患者さんの支持を確保した手応えがあったのですが、それでも患者数の減少が想定内に収まる程度かどうか確証がありません。またそれまでの過剰気味なサービスが標準レベルのサービスとなった結果、不満を持つ患者さんが出てくることも考えられます。
また従業員の処遇の問題も大きな問題でした。今回Y整形外科はいったん廃止となり、そこで雇用関係は原則的に清算されることとなります。それから改めてお互いの希望が合う人を再雇用することとし、D医師は、全員と面談して自分の考えを真摯に伝えたのですが、結果として大幅に給与が減ることに対し平然と不満を述べる者も少なくなく、最終的に条件に納得して新クリニックのスタッフとなったのは半数以下となりました。こちらは想定以上の減少でしたが、新体制は診療時間が短く診療終了も比較的早いため、募集に対して応募がとても多く、特にパートスタッフは優秀な人材の確保が容易にできました。
3.期待と不安が半ばの船出
そして・・・期待と不安が半ばする船出でしたが、新クリニックは予想以上にスムーズに患者さんに受け入れられました。地域のニーズは、実は夜間にそれほどはなかったことがD院長の読み通り証明されたわけです。またリハビリ部門は施設基準を落として管理しやすくしたことも奏功し、院長の意向がストレートに伝わる風通しの良い形で機能しています。
患者数はさすがに減少し医業収入は以前の半分程度となりましたが、査定減が無くなり、また人件費はじめコストがそれ以上に大幅減少となったため、利益は開業初月から満足のいくレベルを確保できました。
さらに、これまで深夜にも及ぶ診療に対応できる薬局がなかったため院内調剤とせざるを得ず、管理もスタッフ任せでそれが薬剤比率の上昇にもつながっていたのですが、対応時間が普通になることから調剤薬局の出店が決まり、スタッフの手当てや在庫コントロールの上でもより効率的な運営が可能となったのです。
そして何より院長自身の考える時間がしっかりとれる環境が確保できたことは、今後のクリニック運営を考えていくなかで、非常に有効な戦略であったといえます。
総括
“患者さんのため”を考えるあまり、有限な経営資源を効率的に使えない状況は医療経営の現場において往々にして生じます。特に診療時間と人件費とのかねあいは判断に悩むところでもありますが、「クリニックでできること、すべきこと」を冷静に判断していくことは、差別化の時代を迎え今後ますます重要になっていくものと思われます。