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これからどうなる? 重要性が増した往診
超高齢社会を迎える日本。
今後、「地域のかかりつけ医」による往診の重要性が増していくのでしょうか。
EPISODE 01
訪問診療と往診の違いは?
コロナ下で活躍した「ファストドクター」はなぜ可能だったのか
昨年の第5波では、毎日のようにTVで取り上げられていた「ファストドクター」。実は「ファストドクター」というのは、夜間往診診療システムを運営している会社の名前です。
株式会社ファストドクターは、2016年、菊地亮医師と名倉義人医師により夜間帯に特化した往診専門のクリニックとして立ち上げられました。開業後、2016年から全国の医療機関に先駆けて「往診救急事業」を開始、2019年からは「臨時当直医事業」を展開しています。
コロナ禍の地域医療現場の混乱のなか、毎日のようにテレビや新聞でファストドクターが紹介されたことで、志を同じくする全国の医師が集まってきて、今では12の運営機関が東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、愛知県、大阪府、兵庫県、京都府、福岡県の一部を対象として往診を行う国内最大の時間外救急プラットフォームになりました。*1
そもそも、開業予算を抑えて機動力のある新たなクリニックの形を作りたいと模索した結果、往診型モデルという形を生み出した菊地医師と名倉医師ですが、開業当初は二人とも昼間は常勤の勤務医として働きながら、夜間のみ往診対応をしていました。背景には、救急医療のひっ迫があったのです。
そして、そんな二人の活動の噂を聞きつけた医師たちが一人、また一人と集まり、開業半年で30人近くの医師が協力してくれる往診体制を作ることができたことでも話題になりました。*2
訪問診療と往診との違い
超高齢社会を迎え、かかりつけ医と往診体制、訪問医療の充実、夜間救急医療体制の再構築は、2025年問題を目の前にした日本社会に突き付けられた大問題です。
1970年代までは、医師の住居に診療所が併設されていることが多かったため、夜中に子どもが急に熱を出した、喘息の発作が起きた、高齢者の具合が悪くなったというときは、近所のかかりつけ医に診てもらうことが普通でした。また、移動手段のない患者さんには、往診をする医師も少なくありませんでした。
実際、健康保険制度では往診に対して診療報酬が設定されており、在宅医療を実施した際に請求できる医療費は、大きく①往診・訪問診療料など、②在宅時医学総合管理料と各種指導管理料、③検査 / 注射 / 投薬 / 処置料など、④情報提供書 / 指示書料、⑤ターミナルケアに関する費用に大別されています。*3
ですから、緊急の往診に対しても通常の外来診療と同様の診療報酬に、往診診療料などを加算して請求が可能なのです。さらに交通費(ガソリン代)については2キロまでは無料、2キロ以上は各市町村で決めた金額を請求できます。
ただし、交通費については、訪問診療は無料、往診は有料となっていたり、1回目の往診は無料、2回目から有料など、実際は往診を行うクリニックによって、その対応はまちまちとなっているようです。
交通費の設定ついては、そもそも健康保険制度で往診可能地域が診療所から半径16キロまでと定められているため、遠距離の往診を想定していないということも関係があるのではないでしょう。
一方、訪問診療では施設基準(自院か在宅療養支援診療所か)や、疾病(悪性腫瘍で在宅末期総合診療料が算定可能か)によって算定の仕方が違っていたり、訪問回数、ターミナルケア加算などによっても変わってきます。
さらに、24時間対応可能な「在宅療養支援診療所」として申請しているかどうかでも、診療報酬の算定方法が変わってきます。
つまり、ただの往診ならば、通常の外来診療の延長として対応できますが、訪問診療になると24時間対応が求められるため、ハードルが高くなるのです。
次回は、訪問診療に24時間対応するためには、どのような体制づくりが必要かについて考えてみたいと思います。
(文責:ブランディングエディター 内田朋恵)
参考文献
*1 【救急相談窓口】ファストドクターHPより。
*2 雑誌『病院羅針盤』2017年7月1日号のインタビューより。
*3 「在宅医療における診療報酬―東京都医師会」