医師の偏在是正に向けて、厚生労働省が本気を出してきた?
(2025年2月)
昨年12月から続く全国的なインフルエンザの警報レベルの流行は前週よりも減少しましたが、1月22日更新の国立感染症研究所のデータ(第3週2025年1月13日~1月19日*1 )を見ても、まだまだ流行は続いています。
実際、昨年末のインフルエンザ感染者数は、1999年以降で過去最多となる31万7812人で、入院患者数5144人、ICU患者259人とまさに警報レベルで*2 、特に年末年始の1週間の救急医療は、たいへんな逼迫状態だったようです。*3
抗インフルエンザ薬の出荷制限も報道されましたが、こういった感染症の流行が起こるたびに懸念されるのが、外来医師の過多地域と不足地域における医療格差です。
そうした中、昨年12月25日、第2回厚生労働省医師偏在対策推進本部が開催されました。この推進本部は昨年9月から開催されており、第1回の冒頭、武見厚生労働大臣より次のような説明がなされました。*4
急激な人口構造の変化や医師の高齢化の状況を踏まえると、医師の偏在対策は「待ったなし」の課題だと考えており、
この解消なしに、国民皆保険制度を維持することはできないという切迫感を持っているため、
先日「近未来健康活躍社会戦略」の中で医師偏在対策のパッケージの骨子案を示した
こうした状況を受け第2回の推進本部では、「医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ」が示されました。*5
このパッケージでは、医師偏在の是正向けた具体的な取り組みとして、①医師確保計画の実効性の確保、②地域の医療機関の支え合いの仕組み、③地域偏在対策における経済的インセンティブ等、④医師養成過程を通じた取り組み、⑤診療科偏在の是正に向けた取り組み、の5つの柱が明らかになりました。
注目すべきは、経済的インセンティブをつけ「令和8年度予算編成過程で終点区域における支援を検討」すると明記されていることです。
具体的には、「診療所の継承・開業・地域定着支援(緊急的に先行して実施)」、「派遣医師・従事医師への手当増額(保険者から広く負担を求め、給付費の中で一体的に捉える。保険者による効果等の確認)」、「医師の勤務・生活環境改善、派遣元医療機関へ支援」が挙げられています。
特に、医師不足地域での医療を希望したり、関心があったりする中堅・シニア世代の医師に対して、医療機関とのマッチングを行ったり、総合診療専門医養成などのリカレント教育を行ったりする支援が手厚くなっています。
医師偏在是正の取組は、医学部入学臨時定員にも反映されています。*6
令和8(2026)年度の医学部臨時定員の配分について、「医師多数県については臨時定員地域枠を一定数削減していく一方で、若手医師が少ない場合や医師の年齢構成が高齢医師に偏っている場合などは配慮」したり、「令和8年度までに恒久定員内地域枠を一定程度設置する等、更なる県内の偏在対策に取り組む都道府県については、配慮」したり、「医学部臨時定員の配分方針について、引き続き地域枠医師の医師少数区域・医師少数スポット等への配置状況等を踏まえ、検討」することが話し合われています。
ところが、地方では指導教員の数が足りないなどの状況もあり、安易に定員を増やせない事情もあるようです。
また、令和9(2027)年度の定員の臨時枠については、「漸減していく」方針が確認されていますが、医師偏在対策とセットでという声が強く、臨時定員の減員はなかなか進んでいません。
しかし人口減少社会に入った日本で、このまま臨時定員増を放置していけば、必ず医師の過剰状態が起こりえます。そうなれば医師の給料減、医療の質の低下を招くことも容易に想像できます。
とはいえ、地域による医師偏在は待ったなしの状態です。まずは「総合対策パッケージ」をしっかり推進していくことが重要でしょう。
※WEB情報の最終閲覧日は2025年1月26日です。
(文責:ブランディング・エディター 内田朋恵)
*2「インフル感染者数、1999年以降で過去最多」朝日新聞アピタル2025年1月9日配信
*3「インフル入院5千人超 年末年始の1週間、搬送困難事案は35%増」朝日新聞アピタル2025年1月14日配信
*4「第1回 厚生労働省医師偏在対策推進本部 議事概要」令和6年9月5日
*5「医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ」令和6年12月25日厚生労働省
*6「医学部臨時定員について」第9回医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会(資料1)(令和7年1月2 1日)