高齢者の「ポリファーマシー対策」には地域の協力が不可欠!
(2024年8月)
これまで厚生労働省医薬局医薬安全対策課は、「高齢化の進展に伴い、加齢による生理的な変化や複数の併存疾患を治療するための医薬品の多剤服用等によって、安全性の問題が生じやすい状況にあることから」、「高齢者医薬品適正使用検討会」を設置して、「高齢者の薬物療法の安全確保に必要な事項の調査・検討」を進めてきました。
その過程で、「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」、「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))」、「病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方」等が出され、その後のさらなる検討会での議論を経て、7月22日に「病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方」改訂版*1 と、「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」別表3別表4*2 、「地域における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方」*3 がまとめられ、発表されました。
これに先立つ、6月21日の第18回の同検討会では、令和6年度の取り組みとして、「見直しを行った指針及び業務手順書の地域における運用調査」と「医療機関でのポリファーマシー対策業務の効果に係るエビデンス調査・検討」が予定されていると報告がありました。*4
この報告からは、国としては増え続ける医療費を何とか減らしたいという思惑から、ポリファーマシー対策を進めているように見えます。
そういった一面があることは確かですが、実は、ポリファーマシー対策は患者さんにとっても、大変重要なことなのです。
ポリファーマシーは、「単に服用する薬剤数が多いことではなく、それに関連して薬物有害事象のリスク増加、誤薬、服薬アドヒアランス低下等の問題につながる状態である」と定義されています。
そして、ポリファーマシーは、複数の疾患や症状を訴える患者さんに対して、個別に治療が行われることで生じることが指摘されています。
そのため、特にこういった傾向のある高齢者、なかでも高齢者施設の入居者には注意が必要であると言われているのです。
実際、6月21日の検討会では、「高齢者施設での服用簡素化提言」*5 が報告されました。
これによると、「ポリファーマシーは、高齢者施設の薬物治療における重要課題であり、処方見直しを通して、薬剤の要否の判断及び優先順位付けを行い、必要な薬剤を選択し、可能な場合には減薬を行う」必要があること、「薬物治療が複雑になると、誤薬のリスクが上昇し、与薬に要する手間や時間(とくに服薬介助の場合)がかかるだけではなく、服薬アドヒアランス低下、入院・再入院・救急受診あるいは死亡のリスク上昇につながる恐れがある」ことを指摘。
「処方見直しと並行して、服薬回数を見直し、なるべく服薬回数を減らすことで、より良い薬物治療を実現することができる場合がある」と、服薬簡素化の意義を説いています。
ここで指摘されているように、薬物治療が複雑になることは、施設の看護師、介護職の与薬負担を増すことになります。
人手不足のなかで、入居者の服薬管理までも担う介護職員の負荷は大変なものであると、容易に想像できます。
高齢者の服薬問題は、在宅介護においてもしかりであり、たとえば入院で減薬したにもかかわらず、自宅に戻った後、地域の医療機関の連携がうまくなされないと、また薬の量が増えてしまうという状況も報告されています。
「地域における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方」*3 には、地域におけるポリファーマー対策の方法が詳細に記されています。
開業医なら、地域のかかりつけ医として、この取り組みに深く関与することは必須です。
自らが「ポリファーマシーを調整するキーマン」、つまり薬剤調整を支援する者(薬剤調整支援者)になるという選択も視野に、患者さんやご家族とコミュニケーションを深めていくことも、今後はより大切になってくるのではないでしょうか。
(文責:ブランディング・エディター 内田朋恵)
*1「病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方」令和6年7月改訂版
*3「地域における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方」
*4「ポリファーマシー対策について(高齢者医薬品適正使用検討会の取組)」(令和6年6月21日第18回高齢者医薬品適正使用検討会資料2)