診療所の経営状況は良好だから、2024年度診療報酬改定はマイナス改定になる⁉
(2023年12月)
2023年11月25日の朝日新聞に「診療報酬巡る攻防、激化 「医療経済実態調査」公表」*1 という記事が出ていました。
物価高騰、賃上げ圧力を受け、診療報酬の引き上げを求める医療界とマイナス改定が適当とする財務省との間で攻防が激化しているという記事でした。
これに先立つ11月20日、財政制度等審議会が開かれ、審議会でまとめられた来年度の予算編成等に関する建議が鈴木俊一財務大臣に提出*2 されました。
建議の中で、「診療所の報酬単価については、経常利益率が全産業やサービス産業(経常利益率3.1~3.4%)と比較して同程度となるよう、5.5%程度引き下げる」、「これにより、保険料負担は年間2,400億円程度軽減(現役世代の保険料率で▲0.1%相当。年収500万円の場合、年間5千円相当の軽減)」、「その上で、現場従事者の処遇改善に向けて、毎年生じる単価増・収入増を原資とすることを基本としつつ、利益剰余金の活用、強化される賃上げ税制の活用、その他賃上げ実績に応じた報酬上の加算措置を検討すべき」と明記され、2024年度の診療報酬をマイナス改定にすべきとされたのです。*3
一方、11月24日には厚生労働省から「第24回医療経済実態調査の報告(令和5年実施)」*4 が公表されました。
補助金を除いても利益率8.3%の黒字となる一般診療所(医療法人)について武見敬三厚生労働相は、「約900万人が働く医療介護における賃上げや処遇改善の実現は大変重要な課題」と説明し、診療報酬の「本体」部分の大幅引き上げが必要である考えを示しました。
財務省の資料*5 では、「診療所の収益は過去2年間で12%増加する一方、費用は6.5%増加し、経常利益率は3.0%から8.8%へと急増」、「この間、利益剰余金は約2割増加(看護師等の現場従事者の+3%の賃上げに必要な経費の約14年分に相当)」しているとして、「診療所の診療報酬を5.5%引き下げる(マイナス改定とする)」べきであると提言しています。
特に、ベッド数20床未満の診療所は、院長の年平均給与が約3,000万円にものぼると指摘、さらには看護師等スタッフの賃上げ(+3%)に必要な費用=140万円/年は増えた利益剰余金で十分賄えると、資料を提示しています。
さらに「法人登記が古い医療法人ほど経常利益率が低くなるのは、設置者である医師が内部留保を給与の形で取り崩しているから」であり、「中には医療事業収益ゼロで医療事業費用(医師給与)を計上している法人もある」「⾧年診療報酬改定の根拠とされてきた医療経済実態調査では、この内部留保取崩しによる経常利益率低下を看過して診療報酬引き上げをしてきたことになる」と強い調子で主張しています。
来年度の診療報酬改定については、ほかにも攻防が発生しています。検査、リハビリテーション、精神科精神療法、処置、手術等をおこなわずに計画的な医学管理をおこなった場合に評価される「外来管理加算」について、健康保険の支払い側が廃止を求めているのです。*6
11月10日に開催された中央社会保険医療協議会(中医協)総会では、「外来管理加算」も含む「かかりつけ医機能の評価に関する併算定」について議論がなされました。
「かかりつけ医機能の評価」には、地域包括診療料・加算や機能強化加算、生活習慣病管理料、特定疾患療養管理料、外来管理加算などがありますが、患者にとって大変にわかりにくい評価体系になっていることは、これまでも指摘されてきました。
総会では、厚労省から提出された資料(*6 )でこれらの評価における併算定の状況が明らかになりましたが、算定要件があいまいであるとされ、支払い側委員から「外来管理加算」の廃止が提案されたのです。
診療側委員からは、「外来管理加算の廃止は、詳細な診察や丁寧な診察を全否定するもの。地域医療を続けられなくなるような暴論であり、全く容認できない」、「外来管理加算の廃止は、医療機関の経営の根幹に関わることであり、全面的に反対する」、患者にとって分かりにくいといった指摘は理解できるが「地域の内科系の診療に大きな影響を及ぼすため、慎重な議論が必要」といった反対意見が述べられました。
物価対策と少子化対策は喫緊の課題となっているにもかかわらず、財源については大変厳しい状況で、そのためのしわ寄せが医療費削減に向かっています。診療報酬改定が決まるまで、注視していきます。
(文責:ブランディング・エディター 内田朋恵)
*1 「診療報酬巡る攻防、激化 「医療経済実態調査」公表」朝日新聞デジタル(2023年11月25日)
*2 「令和6年度予算の編成等に関する建議書」令和5年11月20日 財政制度等審議会
*3 「令和6年度予算の編成等に関する建議 概要」令和5年11月20日 財政制度等審議資料
*4「第24回医療経済実態調査の報告(令和5年実施)」厚生労働省HPより
*5「社会保障」財務省資料2023年11月1日 P30~33参照
*6「外来(その3)」中医協 総-3(中央社会保険医療協議会 総会(第563回)議事次第)2023年11月10日P120~128