医師のキャリア形成に重要な新専門医制度。シーリング制度の効果は?
(2023年9月)
新専門医制度に移行して5年が経ちました。この間、新型コロナ感染症による採用数の変更や専攻医の過労自殺(甲南医療センター)*1 などがあった新専門医制度ですが、2024年度から研修を開始する「専攻医」の募集を2023年11月1日から開始すると、日本専門医機構は8月21日の定例記者会見で発表しました。
各学会が独自基準で認定していた旧専門医制度に対しては、患者にとってわかりにくい、本当に医療の質が担保されているのか、など批判がありました。そこで、2018年度より日本専門医機構と19の基本領域学会が共同して作成した研修プログラムにそって、研修・認定を行う制度に改められたのが新専門医制度です。*2
新専門医制度の導入にあたっては、2013(平成25)年4月の厚生労働省「専門医の在り方に関する検討会」でも、「少なくとも、現在以上に医師が偏在することのないよう、地域医療に十分配慮」*3 をという要望も出されていました。
その懸念を払しょくし、地域医療を守るために導入されたのがシーリング制度です。
2018年度の専攻医採用開始時には、5大都市(東京都、神奈川県、愛知県、大阪府、福岡県)についてのみ設定されたシーリング制度ですが、2020年度から本格的に導入が開始されました。*4
シーリング制度に関しては、厚生労働省の医道審議会医師専門研修部会で引き続き審議されていますが、2023年度は審議会での議論がまとまらず、募集開始が通年より1カ月遅れの12月1日からとなるなど、現場が混乱する事態となりました。
この反省を踏まえ、今年度のシーリングは2023年度と同様にすることで、募集スケジュールの遅れを回避したようです。
なかなか問題の多いシーリング制度ですが、6月の審議会で、日本専門医機構の渡辺毅理事長はシーリング効果の検証について発表しています。*5
審議会では、「シーリングがかかっている都市の周辺にやはり流れていっていて医師少数県にはいっていないというような傾向があることからすると、そろそろシーリングは限界ではないか」(山口育子委員・認定NPO 法人ささえあい医療人権センターCOML理事長)とか、「(特別地域連携プログラムでは)平等性を欠くようなことが起こっていないのかどうかというのはやはり検証していただきたい」(野木 渡委員・公益社団法人日本精神科病院協会副会長)といった、シーリング制度の問題に言及する意見がある一方、「シーリングという制度を維持していかないと地域医療は守れないのではないか、基本的にそういうスタンスで我々地方としては考えている」(立谷秀清委員・全国市長会会長 相馬市長)という地方からの切実な意見もあり、あらためて地域医療をどうやって維持していくかという問題がクローズアップされたようです。
医師の専門性については、広告規制の緩和により医療広告が可能になっているため、専門性を売りにする開業医も増えています。*6
一方で、新専門医制度には「総合診療専門医」が基本領域の専門医として加えられ、地域医療の維持とかかりつけ医制度を推進していきたい厚労省の意向もあるようです。
超高齢社会、人口減少社会を迎え、これまでの医療制度の維持が難しくなるなかで、医師の質を確保しつつ、医師の偏在を解消するためには、新たな仕組みを探っていく必要があるのではないでしょうか。
(文責:ブランディング・エディター 内田朋恵)
*1 「甲南医療センター過労自殺 遺族が会見「医師を守れない病院に患者を守れる」のか」神戸新聞NEXT 2023年8月17日(最終閲覧日:2023年8月27日)
*2 「新しい専門医制度」一般社団法人「日本専門医機構」理事長 早稲田大学特命教授 池田康夫 厚生労働省へき地保健医療対策検討会 資料2( 2015年3月30日)
*3 「専門医の在り方に関する検討会報告書」平成25年4月22日
*4 「専攻医におけるシーリングについて」医療従事者の需給に関する検討会 第32回医師需給分科会 参考資料1(2020年1月29日)