光熱費や備品代の高騰やセキュリティ対策費用……、クリニックを襲うコストプッシュ
(2023年4月)
今年の春闘は大手企業を中心に、5%を超えるベアのアップや一律7,000円のアップなど、かなり思い切った賃上げとなりそうです。*1
一方で、中小企業などは商品やサービスへの価格転嫁が進んでいないために、なかなか賃上げとはならないようですが、それは医療業界も同じことのようです。
3月14日、日本病院会の相澤孝夫会長は、加藤勝信厚生労働大臣に「入院基本料の引き上げに関する要望書」*2 を手渡し、「昨年から継続している電力、ガス等の値上げについてはご承知の通り、病院の経営にも大きく影響を及ぼしております」「安定的な病院経営による安定的な医療提供体制を確保するためには、入院基本料の引き上げが必要です」と訴えました。
要望書によりますと、入院基本料(7対1)の消費者物価指数は、光熱・水道費、電気代、ガス代に比べて低いままであり、国家公務員(Ⅱ種)の初任給の上昇率よりも低く抑えられています。
加えてコロナ禍で2020年度の医業利益率(「医業・介護利益」÷「医業・介護収益」)はマイナス6.92%と過去最低を更新しています。
コロナ前から100床当たりの医業利益はマイナスでしたが、そのマイナス幅がコロナ禍により増大、コロナ補助金でなんとかやりくりしているというのが実情です。
昨年7月の「Check! 気になる医療ニュース」*3 でも、物価高騰を価格転嫁できないクリニックの状況について掲載しましたが、その状況がより深刻になっているということです。
これまではコロナ補助金があったから、なんとか経常黒字を出せた病院経営でした。しかしコロナが5類に変更になることで、補助金も減額されることが決まっています。
相澤会長の訴えは、地域医療の崩壊を招きかねない現状を、切実に写すものでした。
コロナ以降、オンライン診療が一般化、治療アプリの保険適用も進み*4 、クリニックのICT化は今後ますます進むでしょう。
一方で、2021年に「ランサムウェア」のサイバー攻撃にあった徳島の町立半田病院*5 の被害は、クリニックレベルでも他人ごとでは済まされなくなっています。
マイナ保険証の原則化、電子カルテ、電子処方箋の本格導入は待ったなしです。
3月23日に開催された「第16回 健康・医療・介護情報利活用検討会 医療等情報利活用ワーキンググループ」でも、セキュリティ対策に対しての「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン案」が話し合われました。*6
このガイドラインは5月中旬には正式決定するもようです。
「費用がかかることはちょっとできない」では済まされない、クリニックでもサイバーセキュリティ対策をしっかり取らなければならない時代になってきています。
(文責:ブランディング・エディター 内田朋恵)
*1 賃上げ2023(日本経済新聞サイトより)(3月25日最終閲覧)
※参考資料:連合2023春季生活闘争 共闘連絡会議「回答速報」No.8(2023年3月26日最終閲覧)
*2「「入院基本料の引き上げに関する要望書」 (2023年3月14日)(2023年3月26日最終閲覧)
*3「物価高騰を価格転嫁できない保険医療機関、どうやって乗り切るか」(Check! 気になる医療ニュース2022年7月)(2023年3月26日最終閲覧)
*4「<フロンティア発>スマホでデジタル治療」(東京新聞2023年3月26日)(2023年3月26日最終閲覧)
*5「徳島県つるぎ町立半田病院ランサムウェア被害、1年後の真実とは?」(Yahooニュース2022年11月7日)(2023年3月26日最終閲覧)
*6「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第 6.0 版 概説編」 (第16回健康・医療・介護情報利活用検討会医療等情報利活用ワーキンググループ資料について(2023年3月23日)(2023年3月26日最終閲覧)