湿布薬の処方制限枚数引き下げられ、ますます進む医薬品適正使用
(2022年5月)
4月から2022年度の診療報酬改定に伴う変更が開始されました。
増加し続ける医療費に対して支払い側(健康保険組合連合会・健保連)は削れるものは削りたいと主張し、今回も医師側と激しい意見の応酬があったようです。
その一つが、湿布薬の処方制限の引き下げです。
令和元年度、2年度だけを比較すると概算医療費の伸び率は-3.2%、金額にして1.4兆円減となっていますが*1 、すべての団塊の世代800万人が75歳以上、つまり後期高齢者になる2025年問題を考えたなら、削れるところはもっと削らなければ! というのが支払い側のスタンスなのでしょう。
そうした背景から、健康保険組合はジェネリック医薬品や処方箋のいらないOTC医薬品を推奨、1月からは新セルフメディケーション税制も導入され、原則としてほぼすべてのOTC医薬品は医療費控除の対象にもなりました。
しかし現実は、軽症での受診は減っていません。オミクロン株の蔓延で、風邪とコロナ感染症の区別がつかないために、発熱外来を受診する患者さんは増えましたし、腰痛や膝痛などで湿布薬の処方を希望する患者さんも減っていません。
この湿布薬の処方枚数制限については、昨年12月8日の中医協総会*2 で議論されていますが、その際、支払い側の委員からは処方箋1枚当たりの湿布薬処方枚数の分布図(スライド35枚目)*3 を根拠に、「35枚までを原則とするということで十分対応できる」という意見も出されました。
これまでにも、ビタミン剤、うがい薬、保湿剤などにメスが入れられてきた薬剤給付の適正化ですが、今回の湿布薬については「多剤を内服する高齢者には(湿布薬は)有用性が高い」と医師側委員が反対意見を述べたことで、1割減の63枚で決着しました。
さらに2025年問題に対応するため、厚労省「高齢者医薬品適正使用検討会」では「ポリフォーマシー対策」が話し合われており、2022年度は地域において「指針・業務手順書に沿ったポリファーマシー対策」の実践に入るための指針・業務手順書の改訂が検討されています。
ポリファーマシーとは、「多剤服用の中でも害をなすものを特にポリファーマシーと呼ぶ。ポリファーマシーは、単に服用する薬剤数が多いことではなく、それに関連した薬物有害事象のリスク増加、服薬過誤、服薬アドヒアランス低下等の問題につながる状態である」と「高齢者の医薬品適正使用の指針」*4 では定義されています。
実際、外来、在宅医療、常勤医師のいない特別養護老人ホームでは、75歳以上の4割に5種類以上の薬剤が処方されており、「潜在的に不適切な薬剤」(potentially inappropriate medications:PIMs)の処方は高齢者の4分の1でみられ、さらにベンゾジアゼピン系催眠鎮静薬/抗不安薬や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が多く使われていると報告されています。
一概に高齢者の多剤処方が悪いとは言えませんが、高齢者の4分の1にこうした状況が見られるという現状を鑑みれば、ポリファーマシー対策の推進が必要です。
高齢者の健康被害が減らせるだけでなく、医療費の削減にもつながるのなら、一石二鳥でしょう。
日々、高齢者と向き合う開業医であればこそ、多剤処方の問題には敏感になりたいものです。
(文責:ブランディング・エディター 内田朋恵)
*2 2021年12月8日 中央社会保険医療協議会 総会 第503回議事録