コロナ禍で高齢者のヒアリングフレイルがあらためて注目されています
(2021年11月)
日本では遅れていたワクチン接種が進んだこともあり、コロナ感染症の流行が落ち着いてきました。
新規感染者数が減ったこともあり、これまで病院に行く回数を減らしていた高齢者が通院回数を増やしたり、
久しぶりに通院を再開したりしているようです。
そんななかで、高齢者の「ヒアリングフレイル(耳の虚弱)」の問題があらためて注目されています。
「ヒアリングフレイル」とは加齢などにより会話を聞き取る機能が衰えた状態のこと。
アメリカでは、かなり前から耳の遠い人は認知症やうつ症状になるリスクが高いという研究が発表されていましたが、
日本でもやっと「ヒアリングフレイル」が認知症のリスクを高めるという問題が取り上げられるようになってきました。
特にコロナ禍でのマスクをしての会話は、高齢者にとっては大きな負担になっています。
「女性蔑視」発言*1 で東京五輪組織員会会長を辞任した森氏の記者会見でのやり取りを覚えていますか?
マスクをつけたまま記者が質問をすると、「え? 何を言っているかよくわからないから、マスクを外して質問しなさい」と言っていました。
まさにこれが「ヒアリングフレイル」です。
森氏は「聞こえないから、マスクを外して言ってくれ」と要求できる立場にいましたが、
普通、病院の診察室にいらっしゃる高齢の患者さんは、そんなことなかなか言えません。
多くの場合、「先生や看護師さんに悪いから」と、聞こえたふりやわかったふりをしてしまいがちです。
マスクをしていなければ医師や看護師の表情を読み見ることもできるので、
ゆっくり話せばコミュニケーションも取りやすいのですが、マスク越しではそれもできません。
「ほかに飲んでいる薬はありますか?」など、大事な話が通じていないということも十分にありえます。
家族と同居している高齢者は、会話が成立しなくなるために、家族に進められて補聴器を使い始める方が多いようですが、
一人暮らしや老夫婦だけでは難聴に気づくのが遅れ、適切な治療につながらずに、うつ症状や認知症が進行してしまう恐れもあります。
耳鼻咽喉科の医師なら日頃から難聴の患者さんを多く診察しているので、患者さんが聞こえているかいないかの判断はつくものです。
しかし、それ以外の診療科の医師は見過ごしてしまうこともあるでしょう。忙しい場合は、なおさらです。
また、耳の遠い患者さんに大きな声で会話する医師も多いですが、患者さんによっては、そういう態度をされると不快な気分になったり、
恐怖を感じたりする人もいます。
それは「ヒアリングフレイル」の患者さんへの正しい対応の仕方ではありません。
患者さんに寄り添い、患者さんに満足いただける医療を提供するためにも、日頃から患者さんの「ヒアリングフレイル」を意識して、
聞こえが悪い患者さんへは、診療時間が長くなっても「わかりましたか?」と一つ一つ確認しながら、
時には絵や文字を書いて説明することも必要です。
高齢化社会の診療所経営は、効率だけを追求してもうまくいかないのです。
(文責:ブランディング・エディター 内田朋恵)