医師の働き方改革を進めるために不可欠なタスク・シフト
(2019年12月)
2024年4月から医師の時間外労働は原則として年間960時間(一部、救急医療〈B水準〉や研修医など〈C水準〉は1860時間)が上限となる。その実施に向け、厚生労働省「医師の働き方改革に関する検討会」では、医師の労働時間短縮のために徹底して取り組む項目として、医療従事者の合意形成のもとでの業務の移管や共同化(タスク・シフティング、タスク・シェアリング)を掲げ、これを推進するという報告書が提出された。
そもそも、今回の働き方改革にあたっての基本認識として、「医療は医師だけでなく多様な職種の連携によりチームで提供されるものであるが、患者へのきめ細かなケアによる質の向上や医療従事者の負担軽減による効率的な医療提供を進めるため、さらにチーム医療の考え方を進める必要がある」とあるように、これからの医療に、タスク・シフティング、タスク・シェアリング、ICT等の技術活用による効率化は欠かせない。
なかでも「ナース・プラクティショナー*」など、従来の役割分担を変えていく制度的対応を検討していくべきとの指摘があり、今後の検討課題とされた。
この夏に行った日本歯科医師会や日本産科婦人科学会など30の医療関係団体によるヒアリングでも、6分野286業務で「医師から他職種にタスク・シェアリングできる可能性がある」という意見が出た。
これを受け期待されているのが「特定行為研修を修了した看護師」である。これは、チーム医療を推進し看護師がその役割をさらに発揮するために2014年6月に創設された研修制度であるが、研修ができる指定研修機関が40都道府県134機関(2019年8月現在)にとどまっており、研修を修了した看護師総数も738名(平成29年12月現在)に過ぎない。
厚生労働省は「2025年度までに10万人の研修修了者を養成する」という目標を掲げているが、実現は難しいのではないだろうか。というのも一方で厚労省は、2025年には看護職(看護師・准看護師等)が6万~27万人不足するという推計値を出しているからである。医療・介護・予防・住まい・生活支援が一体的に提供される「地域包括ケアシステムの構築」の実現を目指す厚労省にとって、医師の働き方改革とともに、チーム医療は推進しなければならない課題であり、今後は看護師養成、復職支援を検討するという。
地域のかかりつけ医になることを求められる診療所、クリニックにとっては、優秀な看護師の確保がますます難しくなることも予想される。長く勤務してもらえる制度作りや工夫がますます必要になってくるのではないだろうか。
*医師の指示を受けずに一定レベルの診断や治療などを行うことができる資格。現在の日本にはこれに相当する資格はない。
(ブランディングエディター:内田朋恵)