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開業のケーススタディ

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継承物件と診療体制の変更

第4回目では、継承物件での開業についてご紹介します。
継承物件開業は、全くの新規開業に比べて開業コストの負担が少ないことや立ち上がりのリスクが回避できるなど、開業の選択肢として注目を集めています。
「何を」継承するのか、その見きわめが重要なポイントとなるようです。

継承物件、盛業の裏にある問題点―整形外科クリニック紹介

長時間の診療形態、経営上の問題に気づいたが…

整形外科クリニックのケース

Dクリニックの概要

項目 内容
標榜科目

整形外科、リハビリテーション科、リウマチ科

院長

男性 43歳

開設日

平成20年4月

所在地

埼玉県郊外

クリニックの概要

テナントビル1階(60坪) 診察室、処置室、エックス線室、リハビリ室

専用駐車場

3台

交通アクセス

私鉄の最寄り駅 徒歩15分

経営形態

個人

Dクリニックの環境等

東京都内の病院に勤務していたD医師が開業を考えたとき、当初から念頭に置いていたのはいわゆる「継承物件」でした。以前までであれば、第三者継承の物件は「患者数が減って立ち行かなくなっている」「地域や契約などにトラブルを抱えている」など何かネガティヴな問題含みのものが多く見受けられましたが、最近は患者数も十分に確保されているなかで、院長のアーリーリタイアメントなど様々な状況からクリニックの譲渡を希望されるケースが増えてきており、お互いの条件が合致すれば全くの新規開業に比べて開業コストや立ち上がりのリスクを回避できる、メリットの多い開業の選択肢として注目を集めている形態です。

D医師が物件選定を始めてから1年近く経ち、ようやく希望に合う物件がコンサルタントから紹介されました。場所は都内にも近い埼玉県の私鉄沿線の駅徒歩15分程度の住宅地にある「Y整形外科クリニック」です。ロケーションは人通り・車通りも多い通り沿いの1階で、近隣には強力なライバルはおらず、診療圏調査の上でも十分な結果が出ています。

前院長のY医師はまだ60代で開業から20数年、多くの患者とスタッフを抱えて夜遅くまで毎日診療を行っていましたが、ここ暫く体調がすぐれず、思い切って忙しいクリニックを若い先生に譲りたいとのお考えで希望を出されたようでした。

譲渡の条件的には、一般に整形外科のテナント開業の場合に開業資金が総額で7〜8千万円程度かかるのが通例なところ、営業権の代金も含めてその半分以下と非常にリーズナブルで、内装や医療器械・備品類もそのまま使えそうです。患者さんも十分についており、また熟練したスタッフもいるなど、好条件に満足したD医師は殆ど即決で仮契約を結んだのでした。

その後、現場状況を把握するためY整形外科で週1〜2回のパート勤務を開始したD医師でしたが、診療を続けていく中で、徐々にY整形外科の抱える経営上の問題点に気付くようになってきたのです。

Y整形外科は郊外のいわゆるベッドタウンの入り口に位置しており、その地の利を生かして慢性疾患の患者さんとともに通勤・通学帰りの若年層の患者さんもそのターゲットとしていました。そのため、診療時間が朝9時から夜8時までと非常に長く、さらに実態は昼・夜ともに診療が延びて時には夜中の0時近くになることもあったのです。

患者さんも心得たもので、受付終了後に普通に来院するご近所の方や風邪などの内科系疾患で投薬を希望する方など様々、さながら夜間診療所の様相を呈していました。

スタッフも、体力的にはきついのですが、患者さんから重宝がられて感謝もされる状況に充実感を持って働いている様子でもあり、何より時間外給与の実入りの意味からも現状に満足している人が多いようです。ただし、そのような特殊な環境になじめずに短期間で退職に至る人も多く、メンバー的にはベテランの熟練者中心で新陳代謝は進んでいません。

パート勤務が1ヶ月を過ぎるころから、その経営形態に不安を抱いたD医師は預かっていたY整形外科の決算書を改めて眺めてみたところ、売り上げの割には利益が少ない点が気になってきました。経費のなかの「給与」はスタッフ数と勤務時間からすると妥当な気もしますが、適正値がどのくらいなのか判断がつかないため、専門家の診断を受けることにしました。

Y整形外科決算書(平成18年)

月間数値 決算金額
単位(千円)
構成比 備考

医業収入

235,000

110%

保健収入、自賠責収入など

保険料定減


22,100


10%

保健査定による減額

売上計

212,900

100%

 

薬品材料費

43,800

21%

 

人件費

96,500

45%

法定福利費含む

家賃

7,200

3%

 

リース料

6,000

3%

 

その他経費

53,000

25%

委託費、光熱費、消耗品費、交際費等

経費計

206,500

97%

 

差引利益

6,400

3%

 

知人に紹介された税理士に決算書を見せて確認したところ、下記のような指摘を受けたのです。

  1. 院内調剤であることを考慮しても医業収入はかなり多い
  2. 保険査定減割合が非常に高い
  3. 薬剤費の比率は平均値と比べると高い
  4. 人件費率は院長の身内の事務を含めると45%近くになっており、経営を大きく圧迫している。個人別給与も年収ベースで相当割高となっている
  5. 借入はないもののリースが多く、対外債務割合は低くない可能性がある

盛業の裏にある問題点が浮き彫りにされたのでした。

医業収入が多いのは、長時間診療と無理のある保険請求の賜物であり、保険請求の観点から当然マネージメントされなければならない留意事項をあまり考えずに診療をしてきた結果、見かけ上の収入は多くても支払者側で査定減額された結果、実収入は10%近く減っていました。また診療に使用する薬剤なども当然査定前の実診療ベースとなるため、結果として薬剤比率が上がってしまっていたのです。

そして、何より人件費です。スタッフはリハビリ室中心に総勢約30人、また一人当たり給与は職種別平均値の1.8倍を超えていました。深夜にわたる時間外労働のため、残業手当は多い人で基本給に迫る水準の月もあり、また夜間診療の体制を維持するために割高な時給で多くのパート職員を確保する必要がありました。

Y院長は診療室で患者さん対応をするのに手一杯であるうえ、年齢や体調のこともあり、結局はコストアップを承知で体制を厚くして対応していましたが、そのことがさらに院長の院内ガバナンスを失わせる結果になっていたのです。

総括

継承まで4ヶ月を切り、その抱えた問題点の深刻さに頭を抱えたD医師でしたが、基本的な条件がどうしても気に入っていたことから先輩開業医のアドバイスとコンサルタントの協力のもと、考え抜いた末思い切った事業リストラクチャリングを決定したのはその後さらに1ヵ月後のことでした・・・

(文責:税理士法人町山合同会計)